帝都アガスティアを脱出すべく、グラン達はグランサイファーの元へと走る。グラン
達から託され、グランサイファーを守り切った大将アダムは、グラン
達に感謝と自らがゴーレムであることを告げ、機能を停止する。アダムをメフォラシュへと運んだ一行は、オルキスを巡る全てに決着をつけようとする黒騎士から、雌雄を決する戦いを挑まれる。
ビィ
やれやれ……
今回ばっかりは、
本当にどうなるかと思ったぜ……
ラカム
へっ……
なんだかんだで、毎回似たようなこと
言ってねぇか? それ?
ビィ
へへっ! そーかもな!
カタリナ
事の始まりからは、
誰もこのような決着は
想像出来なかっただろう。
カタリナ
いまはせめてわずかでも……
決着を喜ぼうじゃないか。
黒騎士
…………
オルキス
…………
見事、宰相フリーシアの
計画を打ち砕いた一行。
一行がその場で、
安堵の息を漏らしていると……
リーシャ
あれ?
いま、何か音が――
帝国兵1
ここだ! 見つけたぞ!
例の騎空団の連中が……
帝国兵2
なっ!?
こ、これは……宰相閣下!?
しっかりしてください! 宰相閣下!
帝国兵3
貴様ら……よくも宰相閣下を!
ラカム
やれやれ……
「リアクター」で意識を失ってた連中も、
目を覚ましたみてぇだな。
帝国兵3
増援と救護班を頼む!
今回の首謀者が宰相閣下を気絶させて
ここに立てこもってるぞ!
オイゲン
はっはっは!
今回の首謀者がここに居る、っつーのは
確かに間違ってねぇなぁ! おい!
ロゼッタ
ふふ……彼ら、とっても元気みたいね。
無事を喜んだ方が良いのかしら?
イオ
何よ!
帝都をなんとかしよう、って、
頑張ったのはあたし達なのにー!
黒騎士
しかし、連中にとって我々は
帝都を襲い、国の中枢を壊滅させた
大悪党にしか見えんだろうな。
オルキス
やったこと自体は……
案外、間違ってない……
ラカム
ま! 下手に感謝されるより、
こっちのほうがいつも通り
って感じもするけどな!
ラカム
このままタワーの外まで突っ切るぞ!
さっさと俺達のグランサイファーまで
帰ろうぜ!
グラン一行は、
押し寄せる帝国兵達を蹴散らし、
タワーを脱出する。
シェロカルテ
皆さ~ん!
ご無事で何よりです~!
モニカ
その様子なら、
どうやら「リアクター」とやらは
無事に破壊出来たようだな。
リーシャ
よろず屋さん!
それに、モニカさんも!
おふたりとも、お怪我はありませんか?
ザカ大公
こちらの戦況も、
そう悪いものではないぞ。
帝国の連中とは士気が違うからのう。
モニカ
秩序の騎空団……
ポート・ブリーズの騎空士達……
バルツ公国……
モニカ
それにアウギュステの住人達も、
皆、貴公らに、
恩のある者ばかりだからな!
ザカ大公
不調を訴えていた者達についても、
もはや心配はいらん。
ザカ大公
皆、順調に快方に向かっておる。
やはり、お主らによる「リアクター」の
破壊が効いているようじゃな。
シェロカルテ
ただまぁ……
それは帝国の兵隊さん達も
同じなんですけどね~……
オイゲン
もうやるこたぁやったんだ。
これ以上ここに、
無理に留まる必要もねぇだろ?
選択肢
撤退しよう
ビィ
>そうだな!
選択肢
このまま乗っ取ろう!
ルリア
え……えと、
エ、エルステ帝国を……ですか?
モニカ
はっはっは!
貴公は顔に似合わず、なかなか大きな
野望を持っているようだな!
リーシャ
モ、モニカさんまで、
なに言ってるんですか!
ザカ大公
ここはひとまず退くのが
賢明じゃな……
ザカ大公
差し迫った危機を乗り越えた以上、
後のことは、
この国の者達に任せるべきじゃろう。
シェロカルテ
ではでは、総員撤退ですね~
そう確認すると、
シェロカルテは手近な騎空士に振り返る。
シェロカルテ
すみませんが~
大至急、
皆さんへのご連絡をお願いします~
シェロカルテの指示を受け、
騎空士は各地から応援に
駆け付けていた者達の元へと駆けていく。
ラカム
うし! 俺達もこの流れに乗って
早いとこグランサイファーのところまで
戻ろうぜ!
ラカム
あの大将さんならグランサイファーを
守り切ってくれると思うが……
なんだかんだで心配だからな。
グラン一行は
撤退していく仲間達と共に、
アガスティアを駆ける。
増援に駆けつけた面々は
それぞれの騎空艇を目指し、
一行はアガスティア最下層へ進む。
グランサイファーの安置される
アガスティア最下層で、
一行は異様な光景を目の当たりにする。
グランサイファーの周囲には、
数多の兵達が倒れ伏し……
アダム
…………
その甲板には、男がたったひとり、
傷つきながらも、
毅然として立ち続けていた。
黒騎士
貴様……
本当にひとりで騎空艇を
守り切ったというのか……
ラカム
ありがとよ、大将さん……
本当に……あんたにゃいくら感謝しても
足りねぇくらいだ。
アダム
お気になさらずに……
これが私の役目ですから。
ルリア
でも、怪我がいっぱいで……
本当に命懸けでグランサイファーを
守ってくれたんですね……
傷ついたアダムに感謝する一行は、
ふと、その傷口からあることに気付く。
オルキス
その身体……
アダム
この身体は……
生身の人間のものではありません。
アダム
私は、
かつて、エルステが
栄華を極めた時代に作られた存在……
アダム
いまでは失われてしまった
技術の粋を集めて作られた、
当時のゴーレムの頂点……それが私です。
オルキス
ゴーレム……
アダムは
纏っていた空気を柔らかくし、
一行に改めて頭を下げる。
ラカム
お、おい!
いきなり、どうしたってんだ?
アダム
このエルステという国に代わり、
改めて礼を言わせて頂きたい……
アダム
ありがとう……
貴方達は貴方達が思う以上に、
たくさんのものを守ってくださいました。
アダム
それは……何にも代えがたく、
そして私が……
本当に守りたかったものです。
アダムの言葉に、
一行はやや気恥ずかしそうに
顔を見合わせる。
アダム
そして……オルキス様……
オルキス
え……?
不意に名を呼ばれ、
オルキスは驚きの表情でアダムを見る。
アダム
出来る、ことならば……
私が最後まで……
ご案内したかったのですが……
アダム
すでに、限界を超えており……
私自身……どうして未だに、
私が動いているのか……
黒騎士
どうした?
貴様、様子が……
アダム
貴女と……彼女のために……
私は……
だから、どうか……
アダム
…………
ルリア
え……?
リーシャ
ア、アダム大将……?
リーシャが声をかけるも、
アダムは全く反応を示さない。
イオ
うそ……
オルキス
…………
オイゲン
お、おいおい……!
待てよ、冗談だろ?
アダム
――――
ラカム
嘘だろ、おい……
ロゼッタ
…………
カタリナ
くっ……
ビィ
そんな……
じゃ、じゃあこいつ……
限界までオイラ達の艇を守って……
一行が皆、呆然として立ち尽くす中、
黒騎士は一つの提案を口にする。
黒騎士
グラン……
メフォラシュに行ってはもらえないか。
リーシャ
メフォラシュ……?
確か、そこは……
黒騎士
エルステの王国時代の首都だ……
エルステがゴーレムによって、
栄華を極めていた時代のな……
黒騎士
この男が眠るべき場所は、
あそこ以外にはないだろう……
黒騎士
そして……
いまの私の全てが
始まった場所でもある……
黒騎士
だからこそ私は……
そこでお前達と決着をつけたいのだ。
オルキス
…………
ルリア
…………
黒騎士の意向を聞き届けた一行は、
アダムを船室に安置し、
静かに艇を出港させる。
一行の向かった先、
ラビ島の周囲は
混乱の様相を呈していた。
アガスティアでの動乱の波を受け、
混乱している戦艦の隙を突き、
一行はラビ島に降り立つ。
戦艦の混乱とは打って変わって、
メフォラシュの街は、
以前と変わらぬ様子を保っていた。
オイゲン
そういやぁ、この街にゃ
ほとんど外の情報は、
来ないようになってるんだったか……?
黒騎士
連中の封鎖が、
まさかこんな形で、
この街の平穏を守るとはな……
一行は、
一路、街の中央、
古き都の王宮へと向かう。
ルリア
……えっ?
ビィ
ん? どうした、ルリア?
ルリア
いま……
女の子の笑い声が……
黒騎士
いま、この宮殿に、
我々以外の者が居る、と……?
リーシャ
帝国兵達はアガスティアでの混乱から、
皆、一度、それぞれの砦や、
帝都に戻っているようですが……
黒騎士
そもそも女の子だと?
民間人は入れないはずだが……
ルリア
で、でも!
どこかで聞いたような
声だったような……
結局、ルリアの聞いた声については、
それ以上わかることはなく、
宮殿に一行以外の人影は無かった。
一行は宮殿の一室に
動かなくなったアダムを
横たわらせる。
ラカム
こいつにはなんだかんだで、
本当に世話に
なりっぱなしだったよな……
ロゼッタ
彼がアタシ達に望んでいたことを、
アタシ達はちゃんと
果たせたと思うわ……
ロゼッタ
だからいまは……祈りましょう。
彼の……安らかな眠りを。
横たわるアダムへ、
皆は黙とうを捧げる。
そんな長い沈黙の後、
オルキスは真剣な表情で
ルリアに向き直る。
オルキス
ルリア……
ちょっと……
ルリア
…………?
一行からは
少し離れた場所へルリアを連れ、
オルキスは口を開く。
オルキス
ルリア……
一つ……聞いてほしいことがある。
ルリア
聞いて……ほしいこと?
オルキス
私の……
最初で最後のワガママを、
聞いてほしい……
オルキス
オルキスじゃなくて、私の……
最初で、最後の、ワガママ……
ルリア
オルキスちゃん……?
オルキス
…………
宮殿の大広間に皆を集め、
黒騎士は改めて一行に向き直る。
黒騎士
わかっているとは思うが……
私の言う、決着というのは、
オルキスのことだ。
黒騎士
いまルリアの中には彼女を元に……
かつてのオルキスを
復活させることの出来る力がある。
カタリナ
星晶獣デウス・エクス・マキナ、か……
黒騎士
そうだ……
しかし、ルリアを始めとして、
お前達は私とは違う考えを持っている。
黒騎士
もはや話し合いなど、
何の意味も成すまい……
解っているな、グラン。
黒騎士のその一言に、
一気に皆が緊張状態となる。
ルリア
どうして……どうしてですか?
どうして黒騎士さんは……
ルリア
いまのオルキスちゃんを……
認めてくれないんですか?
オルキス
…………
黒騎士
正直なところ……いまの私にはもう、
いまの彼女を人形と呼ぶことは、
出来そうにない。
黒騎士
しかし、それでも……それでも私は、
かつての彼女を取り返さねばならない。
黒騎士
この街の住人のため……
恩義あるエルステの前女王夫妻のため、
そして、かつての己自身のため……
黒騎士
私が私であるために……
かつての誓約は履行しなければならない。
黒騎士
そしてそれらを抜きにしても……
また彼女の笑顔に会いたい……
という気持ちもある。
オルキス
…………
黒騎士
私には……
覚悟が足りなかったのかもしれない。
黒騎士
この選択に対する覚悟が
到底足りていなかった……
黒騎士
しかし……選ばなければ前に進めない。
だからこそ……
私はお前達と雌雄を決したいのだ。
黒騎士はしっかりと
グランを見据える。
黒騎士
もはや私には選べない。
どちらも等しく失いたくない……
黒騎士
だから……
この黒鎧の源泉になった想いと、
この黒鎧が積み重ねてきたもの……
黒騎士
そのどちらの方が強いのか、
その結果に、
私は私の心を委ねたい……
黒騎士は懐から魔晶を取り出すと、
それを自らの身にあてがう。
オイゲン
お、おい、そりゃあ……!?
黒騎士
魔晶だ。
力の一部分は抑えつけているがな。
カタリナ
いよいよ奥の手、というわけか……
ロゼッタ
じゃあこれが……
本当に最後の戦いになりそうね。
イオ
やっぱりこうなっちゃうのは
悲しいけど……
でもあたし、負けないから……!
リーシャ
もはや私達が口出しの出来る問題では
ないのかもしれません……
リーシャ
しかし……
この一戦が決意の一助となるのなら、
私も協力は惜しみません。
ラカム
どっかでわかってたんだけどな……
いつかこう、戦うことになるのは、
避けられやしないってよ……
オイゲン
アポロ……
この戦いをお前が望むってんなら、
オレも手加減はしねぇ……
ルリア
オルキスちゃん……
私達は、黒騎士さんと戦います……
ルリア
私は、オルキスちゃんのことも、
皆と同じくらい大好きだから……
ルリア
だから、オルキスちゃん……!
オルキス
…………
ビィ
ここまで長かったけどよ……
これが黒騎士との決着なんだよな……
ビィ
黒騎士とは色々あったけどよ……
だからこそ、全力でやってやろうぜ!
なぁ! グラン!
黒騎士
来い!
どちらが正義か、どちらが悪かを
問うわけではないが……
黒騎士
勝たなければ得られないのであれば
己の正義を信じ、決着をつける他なし!
オルキスは自身の消滅を覚悟の上で、自ら星晶獣デウス・エクス・マキナに命じ、身体を本来のオルキスに返す。しかし、オルキスの精神はアダムが用意していたゴーレムの器へと移され、一命を取り留めた。王女オルキスからオーキスの名を与えられた彼女は、改めてルリア、イオに友達になってほしいと告げる。一方、アウライ・グランデ空域では真王と名乗る男が、各空域の治安を憂いていた。
グラン達は魔晶の力をも退け、
黒騎士との勝負に勝利する。
しかし、黒騎士に悔しげな様子は無く、
どこかスッキリとした様子で、
自らの敗北を受け入れたのだった。
黒騎士
私の……負けだな。
黒騎士
いや……
改めて礼を言おう、グラン。
黒騎士
ここまで……
この決着の瞬間まで、
よく私に付き合ってくれた……
黒騎士
これで……これでもう私は……
迷いの影は残すものの、
黒騎士はそれらを全て飲み込み、
ひとつの決意を固めようとする。
しかし、
そんな決意に異を唱えるように、
凛とした声が響く。
オルキス
ルリア……
ルリア
オルキスちゃん……
どうして……?
出来ません、私には……
オルキス
お願い……ルリア……
ルリア
出来ません……っ!!
だって、私には、そんなこと……!
ルリア
オルキスちゃんっ!
お願いだから、
考え直してください!
カタリナ
ど、どうしたんだ?
ふたりとも……
オルキス
……ごめんね、ルリア。
そう呟くと、
オルキスは
ルリアの胸元の宝石に手をかざす。
ルリア
だめ……!
オルキスちゃ……っ!?
黒騎士
っ!?
オルキス
我、アルクスの名において、
星晶獣デウス・エクス・マキナの、
発動を要請。
ルリア
――星晶獣デウス・エクス・マキナの、
発動要請を受諾……
黒騎士
まさか……!?
やめろッ!! オルキスッ!!
徐々に光包まれる中、
オルキスはじっと黒騎士を見つめる。
オルキス
ごめんなさい……
黒騎士
待て! やめろ!
オルキスッ!!
オルキス
星晶獣デウス・エクス・マキナ……
我が身より仮初の器を抜き去り……
オルキス
真なる主を、この身に宿せ……!!
――――
闇に落ちる意識の中で、
オルキスは自らの想いを振り返る。
オルキス
私は……
誰なんだろう……
>
オルキス
私はずっと不思議だった……
私は人形だけど……
人形じゃない……
オルキス
私はオルキスだけど……
オルキスじゃない……
オルキス
でも……
そんな私にも、役割が与えられた。
あの人が、役割を与えてくれた。
オルキス
私の役目は……オルキスになること。
オルキス
その意味が……最初はわからなかった。
だから私は、
ときどきあの人を怒らせた……
オルキス
でもあの人は……
たまに、すごく優しい目をする……
オルキス
それは、オルキスに向けられたもの……
私ではなく、
オルキスに向けられたもの……
オルキス
でも私は……
そんなあの人の優しい目が……
すごく好きだった……
オルキス
一緒に旅をするうち、
あの人は少しずつ変わっていった……
オルキス
まるであの目が、
私に向けられているようで……
オルキス
私のことを、
オルキス、と呼ぶこともあった……
オルキス
でも……私も変わった。
私は、ワガママになってしまった……
オルキス
オルキスではなく、
私を見てもらいたい……
オルキス
オルキスを取り戻そうとしているときの、
野心と希望に満ちた、
あの瞳の輝きを失ってほしくない……
オルキス
あの人に与えられるだけじゃなくて、
私も何かを返したい……
オルキス
全てを同時には叶えられない。
私が、私になるということは、
あの人が夢を諦めるということ……
オルキス
私も……
もうオルキスではいられない。
オルキス
私ではなく、
オルキスとして見られるくらいなら、
いっそ……
オルキス
私が生まれた理由を知った時……
全て……全てが、
私には過ぎた願いだと知った……
オルキス
だからこそ私は……
あの人とあの人の幸せのために
捧げられるものは全て……あの人に……
???
そう……
それが貴女の決断なんだ。
オルキス
…………
???
ありがとう……
あの子のために、
大きな決断をしてくれて。
オルキス
元々……全部私のものじゃない、から。
それを……返すだけ。
全部……元通り。
???
でも、貴女は生まれた……
そして、確かにここに居る。
???
私ね……ハッピーエンドが好きなんだ。
皆で一緒に笑っていたいんだ。
???
だから私は……
貴女を放っておいたりなんてしないよ。
オルキス
でも……身体が……
???
大丈夫……
私が不安定な存在になってからも、
実は、話を出来る相手がいたんだ。
???
私は何も出来ない状態だったけど……
彼が準備をしてくれたから……
???
彼は、いつもむすっとしてて、
ちょっと怖く見えるけど、
すごく頼りになるし、優しいんだよ。
オルキス
……?
???
さぁ……だから……
えっと……
???
うーん……
ふたりともオルキスじゃ、
ちょっと不便だね……
オルキス
貴女が居るなら……
私はもう、オルキスじゃない……
???
そっか……
じゃあ、こういうのはどうかな。
???
昔に教えてもらったことがあるんだ、
オルキスという名前の、
別の空域での呼び方……
その少女は、
とある名前を口にする。
???
これは、
生まれ変わるもうひとりの私への
贈り物だよ。
オルキス
これが……
私の、新しい名前……?
???
うん……
貴女はこれから、そう名乗ればいい。
オルキス
うん……
???
そうそう、それともう一つ……
あのぬいぐるみも、貴女にあげる。
???
なんだか私以上に、
気に入ってくれてるみたいだし。
オルキス
ありがとう……
大切にする……
???
ふふ……
それじゃあ、そろそろ時間みたい。
またね……――
???
――…………
ルリア
オルキスちゃんっ!!
良かった……
失敗したかと思って……
黒騎士
オルキス……
???
……?
目を覚ました彼女は、
ぼんやりとした頭で周囲を見回す。
その視線の先に横たわる少女を見て、
彼女は驚きの声を上げる。
???
え……?
身体……じゃあ、私は……?
イオ
実はね?
あの大将さんが予め、
身体を用意しておいてくれたみたいなの。
ルリア
私……聞いたんです。
星晶獣デウス・エクス・マキナが
発動したときに。
ルリア
オルキスちゃんの……
えと、もうひとりの
オルキスちゃんの声を……
王女オルキスの声を聞いたルリアは、
宮殿のとある一室へと導かれた。
大将アダムは、ゴーレムという
人と似て非なる存在であるため……
精神だけになった王女オルキスと
意思疎通を取ることが出来た。
そして、その王女オルキスの願いから、
大将アダムは、
一つの精巧なゴーレムを作る。
そうして作られたゴーレムが、
その部屋には
静かに横たわっていたのだった。
ラカム
ったく……ひやひやしたぜ。
ラカム
あのなぁ、オルキスちゃん……
もうあんな自分を
犠牲にするようなことは……
???
違う。
ラカム
え?
???
オルキス、じゃない……
私はもう、オルキスじゃない……
イオ
え?
じゃ、じゃあ……?
???
名前をもらった……彼女から。
だから……
オーキス
オーキス……
私の名前は、オーキス。
これからは、そう呼んでほしい。
オーキスは、
自身の関節の人ならざる証を、
誇らしげに見つめる。
ルリア
オーキスちゃん……!
オーキス
ん……
頷きを返したオーキスは、
横たわるオルキスへと近づいていく。
そして、その身体の
小さく穏やかな呼吸を確認すると、
安堵した様子を見せる。
オーキス
ありがとう……
オルキス……
そして今度は、
目を伏せる黒騎士の元へと駆けていく。
黒騎士
オーキス……
オーキス、か……
黒騎士
すまないな、オーキス……
かつてのお前への仕打ちを考えれば、
謝って済むものではないだろう……
黒騎士
それに……
お前の決断のおかげで、
私は……
オーキス
だったら、こう言って……
ありがとう、って。
黒騎士
……っ!
オーキス
私は……
いまに至るまでの、
全ての出来事に感謝してる。
オーキス
こんな……
こんな結末、考えもしなかった……
オーキス
でも……
私はいま、私がここに居られることが、
すごく、すごく嬉しい……
オーキス
私がどんな出来事の
結果に生まれた存在であれ……
私は……確かにここに居る。
オーキス
だから、アポロ……
黒騎士
…………
オーキス
私はこれからも……
ずっとずっと貴女と一緒に居たい。
いつも貴女の隣に居たい。
オーキス
これからは……
オルキスだけじゃなく、
私のことも見てほしい……!
オーキスの真っ直ぐな言葉に、
黒騎士は戸惑いを見せる。
しかし……
黒騎士
ああ……
お前が望むなら、
私はいつまでもお前と共に居よう……
黒騎士
二度と……もう二度と、
大切なものを手放すものか……
黒騎士
いつまでも一緒だ……オーキス。
オーキス
ん……
黒騎士の言葉に、
オーキスは満足げな表情を浮かべる。
カタリナ
これで……一件落着、かな?
オイゲン
へへっ……
ったく我が娘ながら、
素直じゃねぇんだからよ……
ルリア
良かった……
本当に……
オーキス
あ……
ルリアの声を聞いたオーキスは、
ふと、思い出した様子で、
今度はルリアに向き直る。
オーキス
ルリア……イオ……いままでふたりに、
言いたかったけど、
言えなかったことがある。
オーキス
私は……
自分は、いつか消える存在だと
思っていたから……
オーキス
でも……もう違う。
だから……言わせてほしい。
オーキスは意を決した様子で、
一度静かに呼吸をする。
オーキス
ルリア、イオ……
私と……友達になってくれますか?
ルリア
ふ、ふふ……
私達は、もうずっと友達ですよ!
イオ
あったり前じゃない!
いまさらなに言ってんのよ、もう!
そんなイオの力強い言葉に、
オーキスは安堵の表情を見せる。
オーキス
よかった……
ルリア
いままでも、これからも……
ずっとずっと友達です!
オーキスちゃん!
オーキス
……うん。
ルリアの言葉に、
オーキスは笑みを浮かべる。
そのぎこちないながらも柔らかな笑みは、
どこまでも人間的な愛おしさに
満ち満ちているのだった。
蒼く広がる大空へ溶け込むように
グラン達は、
新たなる旅路へ漕ぎ出して行く。
そして、古都の片隅には、
そんなグラン達の騎空艇を見送る
二つの小さな影があった。
ドランク
いやぁ~……
めでたしめでたしだねぇ!
ねぇ? スツルム殿?
スツルム
ふん……
あたし達の仕事は雇い主を守ることだ。
望みを叶えることじゃない。
スツルム
ただ、まぁ……
この結果なら、あたし達の雇い主も、
もう無茶はしないでくれるだろうな。
ドランク
もー! スツルム殿ったら!
こういう時くらい、
もっと素直に――
ドランク
痛ってぇ!? スツルム殿!?
せっかく全部丸く収まったのに、
ここで怪我人が出そうなんですけど!?
スツルム
安心しろ……峰うちだ。
ドランク
思いっきり先端で刺しといて、
峰うちって何かなぁ!?
グラン達のタワー脱出以後、
影ながら事の顛末を見守っていた
ドランクとスツルム。
人知れずラビ島メフォラシュにまで
付いて来ていたものの、あくまで
全てを影から見守っていたのだった。
スツルム
それで……ドランク。
あたし達は、これからどうする?
ドランク
そうだねぇ~……
色々考えてはいるんだけどぉ……
ドランク
とりあえず……
きっともうあの人には、
僕達は必要ないよね。
スツルム
そう……だろうな。
ドランク
それに、あの人がこれから、
オルキス王女とオーキスちゃんと一緒に
新しい生活を始めるとして……
ドランク
オルキス王女サマは、
れっきとした、
由緒正しい王族だからねぇ……
ドランク
本人達は気にしなくても、
僕達みたいな胡散臭い連中が
近くに居たら都合が悪いだろうし……
ドランク
そうそう!
それに僕達、もうもらったお金分は、
十分働いたよねぇ?
スツルム
そう……か?
ドランク
そうだよ、絶対! そーだって!
なんだかんだ、
結構激務だったわけだし?
スツルム
まぁ、それは……否定しないが。
ドランク
そうそう!
だからしばらくはお仕事もお休みしてさ、
ゆーっくりのんびり過ごそうよ、ね?
スツルムは
しばらく悩んだ様子を見せるものの、
不意に表情を柔らかくする。
スツルム
ふん……
まぁ、たまにはそういうのも悪くないな。
しばらくは依頼を受けるのもよそう。
スツルム
エルステ帝国は事実上の崩壊……
これでこの空域も、
少しは静かになるだろうしな。
ドランク
んん~……
それはどうかなぁ……
スツルム
なに……?
ドランクは睨むように空の彼方を見る。
どこまでも続く青空には、
いまだ幾つもの火種が残っていた。
???
――エルステは、
かような結末を迎えたか。
???
こちら、
黒の騎士への処罰は如何致しますか?
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いらん……必要ない。
過程はどうあれ、
奴はあの女の暴走を止めたのだ。
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もしアーカーシャが
あの女の思惑通り起動しておれば、
被害は想像を絶するものだった……
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ファータ・グランデのみに留まらず、
このアウライ・グランデ……
ひいては他空域にも及んでいたであろう。
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奴はそれを止めたのだ。
英雄と称えこそすれ、
罰を与える理由など何処にあろうか。
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お言葉ですが……
宰相フリーシアの計画には、
そもそもの穴がありました。
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加えて、万が一、
陛下の御身にも危害が及ぶとなれば……
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私なり、碧のなりが、
宰相を始末していたことでしょう。
奴を称える理由などございません。
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…………
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それは仮定の話だ。
事実、事を成したのは、
黒の騎士であろう。
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仮定で物事を進め、
事実を蔑ろにするなど、
あってはなるまい。
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……失礼致しました。
どうか、ご容赦ください。
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だがまぁ、しばらくの間は
ファータ・グランデの治安は不安定に
なるであろうな。
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卿には重い任ばかり押し付けて
申しわけないが……
今しばらく尽力してくれるか。
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…………
君主であろう男の言葉を受け
碧い鎧の男は深々と首を垂れる。
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そして、例のはぐれ……
ロキはまた姿をくらましたか。
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は……そちらについては、
各空域に警戒態勢を取るよう、
伝達済みとなります。
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ふむ……
ではもう一つ、各空域に、
注意せよと伝えてもらえるか。
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小さな赤き竜と、
蒼の少女を連れる騎空団……
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あの男の血をひく子供に、
注意するように、とな……
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……承知致しました。
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それで、その後黒の騎士は
行方知らずのままか。
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そういえば貴公の報告には
なかったが、例の騎空団に
自慢の愛娘が同行していたとか。
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事実であれば、重要な参考人だ。
なぜ報告しない? 貴公も私情を挟み
神聖な我らの任を汚すのか。
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…………
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フッ……
まぁいい。
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忘れるな。我ら七曜の騎士としての矜持、
真王陛下の理想実現のためならば
揺らぐこと罷りならん。
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黒は律を破った。
七曜の座から追放されて然るべきだ。
そう思わんか?
そう言って、黄金の鎧をまとった
騎士が振り向くと、語りかけていた
つもりの相手の姿は既になかった。
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…………
どいつもこいつも……
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瘴流の檻完成まであと少し……
それまでに下準備をせねばなるまい。
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全ては真王陛下の御心のままに……
いまだ辿り得ぬ空の彼方。
天駆ける騎士達は互いに思惑を巡らせる。
物語は続く――――