老婆の家の一室に集まった一行。そこで、黒騎士は過去を静かに語り出した。
母親との死別をきっかけに故郷アウギュステを離れ、エルステ王国に渡り、王女オルキスと出逢った時の事。
オルキスと、その両親との関わりが、黒騎士にとってかけがえのない大切な物であった事。
かつての親友オルキスを取り戻すためには手段を選ばぬと語り、黒騎士は口を閉ざした。
翌朝、一行は新たな決意を胸に王宮へと向かう。
その夜、老婆からの歓待を受けた
グラン一行は、
とある一室に集まっていた。
カタリナ
さぁ、話してもらおうか。
黒騎士……貴殿の知る真実をな。
ルリア
…………
黒騎士
そうだな……
どこから話したものか……
黒騎士
まず、私が
アウギュステの出身だということは、
どうやら既に知っているようだな。
ラカム
ああ……
それでどうして、
この島に知り合いがいるんだ?
黒騎士
そう焦るな。
確かに私はアウギュステで育ったが、
それはずいぶん幼い頃までだ。
黒騎士
そう……
ちょうどそこの小娘くらいの歳か。
その頃に、私の母が亡くなった。
オイゲン
っ……!
黒騎士
母が亡くなった時、
その男は島に居なくてな……
黒騎士
身寄りを失った私は、
アウギュステ経済特区の支援を受け、
特待生としてエルステ王国に渡ったのだ。
黒騎士
エルステは、
このファータグランデ空域でも有数の、
長い歴史を持つ国だったからな。
黒騎士
星の民襲来以前より続く王国は、
歴史を学ぶには最高の環境だった。
そうして黒騎士は、
王女オルキスとの出会いを語る。
黒騎士
当時の彼女はいやに幼くてな……
最初は私よりも年下だと思ったくらいだ。
黒騎士
しかし……
それゆえに純真で、明るく……
私に無いもの全てを持っていた。
黒騎士
歳が同じでも、
こうも違うのかと驚いたよ……
そして同時に妬ましくもあった。
黒騎士
だが、彼女が驕ることは、
決してなかった……
誰に対しても分け隔てなく優しかった。
黒騎士
よく笑い、よくはしゃぎ……よく食べる。
隣に居るだけで元気になれる、
そういう子だったんだ。
ルリア
オルキスちゃんが……
黒騎士
彼女のご両親……
ヴィオラ女王陛下達も
私に優しくしてくれてな……
黒騎士
私は、
一生かかっても返しきれないほどの
恩を受けたよ。
黒騎士
オルキスと共に過ごした年月は、
間違いなく、
私の中で最も幸せな時間だった……
黒騎士
女王陛下達から受けた恩……
彼女と過ごした幸せな時間……
私はそれを決して忘れない。
黒騎士
だから私は彼女を……
オルキスを取り戻すためなら
いかなる犠牲も払う……そう決めたのだ。
その日、黒騎士が
それ以上を語ることはなかった。
そうしてグラン一行は朝を迎え、
王宮へ向け、再び歩みを進める。
カタリナ
…………
イオ
うう……
昨日の話、色々気になっちゃって、
よく寝られなかったわ……
ロゼッタ
ふふ……寝不足はお肌の天敵よ。
レディを目指すのなら、
覚えておかなくちゃね。
ロゼッタ
それに、
今日こそはあの王宮に
乗り込むことになるでしょうね。
ロゼッタ
油断は出来ないわ。
気を引き締めて進みましょう。
グラン。
オルキスに起きた異変について語る黒騎士。
星晶獣にまつわる事件によって、オルキスは成長する事がなくなり、人形のようになってしまったという。
天真爛漫だった過去のオルキスの姿を取り戻すための方法はあるが、オルキス本人がいなければ叶わぬことと語る黒騎士。
黒騎士の目的を知った一行は、オルキス奪還のため王宮を目指す。
ルリア
黒騎士さん……
昨日黒騎士さんが話してくれたことは、
全て真実なんですか?
黒騎士
もちろん。
オルキスについては、
あのご婦人も言っていた通りだ。
ルリア
じゃあ……
いったい、オルキスちゃんには
何があったんですか?
黒騎士
そうか……
それをまだ話していなかったな。
黒騎士
だが、残念ながら私も、
あの日、あの場所には居合わせなかった。
カタリナ
何かが……あったと言うのだな。
あのご婦人の話では、
10年ほど前だったか。
黒騎士
そうだ……10年ほど前のある日、
オルキスのご両親は死に、
彼女はいまの……人形のようになった。
黒騎士
オルキスはあの日以来、
成長が止まり、心を失い、
人形のようになってしまった。
ラカム
おいおい……
何が起きたら、
そんなことになるってんだよ……
黒騎士
星晶獣だ。
星晶獣に絡んで事故があったらしい。
カタリナ
らしい、というのは?
黒騎士
私が駆けつけた時には、
既に全てが終わっていた……
黒騎士
私は後になって、
その場に居合わせていたフリーシアから
全てを教えられたのだ。
黒騎士
表向き、女王とその夫、
即ち、オルキスの両親は、
国外で事故死と報じられ……
黒騎士
その一人娘のオルキス王女は、
行方不明ということになっている。
そう、国民には知らされている。
ロゼッタ
けど実際は行方不明ではなく……
いまのオルキスちゃんになって、
帝国に匿われてるってワケね。
黒騎士
そうだ……
そして私はあの日以来、
必ずオルキスを元に戻すと誓ったのだ。
黒騎士
後のことは貴様らも知っている通り……
挙句フリーシアに裏切られ、
いまに至るというわけだ。
イオ
それが……
黒騎士の目的だったのね……
オイゲン
アポロ……
お前、そんなことを……
ビィ
ん?
けどよぅ、元に戻すったって、
どうやって元に戻すんだよ?
黒騎士
案ずるな……方法はある。
だがそのためにはいまのオルキスが……
あの人形が必要なのだ。
黒騎士
いま貴様らに、
その方法を話すことは出来ない。
黒騎士
だが少なくとも、
あの人形を取り戻すということでは、
いまの我々の目的は一致している。
黒騎士
雌雄を決するならば、
人形を取り返した後だ。
まずは進むぞ……あの王宮へとな。