遺跡を守るゴーレム達の攻撃は激しさを増し、一行は、自分達がフリーシアの元へと近づいているであろう事を予感する。さらに一歩踏み出さんとする一行を制止する黒騎士。フリーシアとの決着をつける前に、黒騎士は全てを話しておきたいという。果たして、黒騎士の真の目的とは。
ゴーレム
――――!
ラカム
ちっ……
出てくるゴーレムの数が、
明らかに増えてきてやがるぜ……
カタリナ
それだけ、
遺跡の中でも重要度の高い場所に
近づいているということなのだろう。
カタリナ
ゴーレム全ての相手をしていたのでは
キリがない……
早く先へ進むとしよう。
歩き出すグラン一行の中で、
ただ一人、
黒騎士だけが足を止めた。
黒騎士
…………
ビィ
どうしたってんだ?
まさか疲れちまったってのか?
黒騎士
いや、違う……
黒騎士
このまま進めば、
じきに我々はフリーシアと、
決着をつけることになるだろう。
黒騎士
だからこそ……
いま、お前達に
話しておきたいことがある。
カタリナ
話しておきたいこと……?
黒騎士
そうだ……
私の目的……そして計画の全てを、
お前達に知っておいてもらいたい。
カタリナ
そうか……
ついに話してくれる気になったのだな。
黒騎士
ふん……
貴様に言われたからではない。
黒騎士
この辺りはまだ騒がしいな……
ひとまず先に、
周囲の雑魚を一掃してしまおうか……!
オルキスを元に戻すために黒騎士が取ろうとしている手段は、ルリアの魂をオルキスに与えるというものだった。故郷を守るために手段を選ばぬ黒騎士の決意に戦慄する一行。フリーシアの手からオルキスを取り戻した後、ルリアを賭けてグラン
らに戦いを挑むと、黒騎士は昏い眼差しを向けて言い放つのであった。
とある遺跡の一角で、
グラン達は、
黒騎士の話に耳を傾ける。
黒騎士
私の目的が
オルキスを元に戻すことであることは
以前も話した通りだが……
黒騎士
その計画について、
私はお前達にまだ話していない……
……そうだな?
カタリナ
ああ……
その計画にいまのオルキスちゃんと、
ルリアが必要だそうだが……
黒騎士
そうだ……
そして結論から言えば……
黒騎士
私の計画は人形とルリア……
その両方を
犠牲にすることになるかもしれない。
ルリア
っ!?
カタリナ
なんだと……?
黒騎士
お前はよく知っているんじゃないか。
グラン……
黒騎士
お前は一度、ルリアの能力によって、
瀕死の状態から、
息を吹き返しているだろう。
黒騎士
お前の命を救ったあの能力には、
実はもう一つ秘密がある。
黒騎士
あの能力の本質は、
ルリアの魂を分割して
分け与えることであり……
黒騎士
魂のない身体にあの能力を使えば、
ルリアの人格が魂と共に、
受け取り手の身体に移植されるのだ。
ラカム
んなっ……!?
じゃ、じゃあ、
ルリアが二人になるってのか!?
黒騎士
それは違う……
あくまで移されるのは人格のみであり、
記憶ごと移されることはないそうだ。
黒騎士
つまり……
能力を持つルリアに
以前のオルキスの人格を再現し……
黒騎士
その人格をあの人形……
オルキスの身体に上書きする。
黒騎士
そうすることで、
記憶は失っているものの、
以前の人格のオルキスを取り戻す……
黒騎士
これが……私の計画の全てだ。
カタリナ
馬鹿な……
そ、そんなこと、
許されるはずがない!
黒騎士
許される、許されない、
という問題ではない……
黒騎士
魂を失い、
永遠に変わることの無くなった人形に、
かつての笑顔を取り戻すには……
黒騎士
エルステの民が望む王女、
オルキスを取り戻すには……
もはやこれしか方法がないのだ……
ルリア
…………
黒騎士
この先、我々はフリーシアと、
雌雄を決することになるだろう。
黒騎士
あの人形を取り戻すまで……
少なくともそれまでは、
我々の目的は合致する。
黒騎士
しかし……
あの人形が我が手に戻ってきた時点で、
私はお前達の敵になる。
黒騎士
どれだけ非情と罵られようと、
私はオルキスを取り戻す……
黒騎士
だからこそ……
その時には互いに譲れないもののため、
改めて相対しようじゃないか。
黒騎士に真の目的を告げられてなお、彼女の事を知ろうとするルリア。ルリアは、黒騎士がオルキスを取り戻した後に一行を奇襲する事もできたと疑問を口にする。迷いも露わに、グラン
達に対しては誠実でありたいと答える黒騎士。守るべきものが違うゆえに、いずれ剣を交える事となるが、黒騎士もまたグランらに心惹かれていたのかもしれなかった。
押し寄せるゴーレム達を退け、
ふと生まれた間隙に、
ルリアは小さく口を開く。
ルリア
ねぇ、黒騎士さん……
黒騎士
これは驚きだな……
もはや私のことなど軽蔑して、
口をきくのも嫌かと思ったが……
ルリア
黒騎士さんはどうして……
さっきの話を、
いま私達にしたんですか?
ルリア
あのお話をせずに、
オルキスちゃんを取り戻した後、
私達の隙を突くことも出来たはずです。
ルリア
なのに、どうして……?
黒騎士
ふん……どうしてだろうな。
それが私にも、
実のところよくわからない。
黒騎士
だが……
私には確かに譲れないものがあるが……
黒騎士
それでもお前達に対しては、
誠実でいたい、と……
黒騎士
相対することになるとしても、
正々堂々、正面から決別したい、と、
そう思ったんだ。
昏い野望を秘めた瞳を伏せながら、
黒騎士はぽつりとそう漏らす。
この時、グラン一行はまだ、
黒騎士が迎える結末を、
知る由もないのだった。