森を進んでいるとスツルムとドランクは別行動を取ると一行に述べる。ふたりには、ロゼッタよりも黒騎士の探索を優先したい理由があった。金で雇われただけの彼らが、この危険な状況を顧みず黒騎士に尽くす事に疑問を投げかける一行。すると、ふたりの口から黒騎士との馴れ初めが語られる。
深い森の中で、
グラン一行はひとまず、
ロゼッタの姿を探し始める。
すると、見計らっていたかのように、
ドランクが声を上げた。
ドランク
さて、と……
それじゃあ、僕達はここまでかな。
スツルム
ん……
ビィ
んん?
どうしたんだよ? 急に。
ここまで、って、どーいうことだ?
ドランク
そりゃ文字通りだよ、トカゲちゃん。
僕とスツルム殿は、
ここからは別行動だ。
オイゲン
お……?
いや……そうか、そうだな。
イオ
なんで?
みんな一緒の方が安全じゃない!
リーシャ
イオ……
彼らはあの森で、
言っていたじゃないですか。
リーシャ
黒騎士を助け出す事こそが、
自分達の目的である、と……
ドランク
そーいうわけ!
僕達としては、何よりも先に、
あの人を見つけ出したいわけね!
スツルム
別行動……
そっちはそっちで、
あの女を探せばいい。
スツルム
あたし達はあたし達で、
黒騎士を探す……
何の問題もないだろ。
ドランク
色々ありがとねぇ!
ここまで連れてきてくれたことには、
感謝してるよん♪
ラカム
まぁ……仕方ねぇか。
ラカム
それに、
そっちが俺達の邪魔をしねぇなら、
俺達に止める理由はねぇしな。
カタリナ
それなら……
最後に一つ、
質問をしても良いだろうか?
ドランク
それは質問によるなぁ!
ちなみに僕のスリーサイズとかは、
トップシークレットで……
ドランク
あ痛っ!?
スツルム
質問……何が聞きたい?
ドランク
ちょっ、スツルム殿!?
人を刺しておいて、
コメント無しは酷いんじゃない!?
カタリナ
ああ、いや……
大したことではないというか、
ただ不思議に思ったんだが……
カタリナ
何故、お前達はそこまで、
黒騎士に尽くすんだ?
カタリナ
お前達はあくまで傭兵であって、
エルステ帝国軍の兵士でもなければ、
黒騎士に仕える騎士でもないんだろう?
カタリナ
金で雇われただけの関係のはずだ。
それが、どうしてそこまで……
スツルム
傭兵……だから。
金で雇われた関係だから、
金をもらった以上、やることはやる。
ドランク
ま、もちろん、
それもあるんだけどねぇ……
ドランク
これ、スツルム殿とも、
あんまり話したことないけどさ……
スツルム殿も同じでしょ?
スツルム
ふん……
まぁ……否定はしない。
こうして、ぽつりぽつりと、
二人が語り始めたのは、
二人の黒騎士との馴れ初めだった。
ドランク
何年前だったかなぁ……
エルステが王国から帝国になって、
すぐの頃だったよね?
スツルム
覚えてる……
あの頃はどこに居ても、
その話題で持ちきりだった……
当時から組んで依頼を受けていた二人は、
馴染の酒場の店主から、
とある依頼主を紹介されたという。
ドランク
いやー、初々しかったねぇ……
まだあのゴツイ鎧なんかも
着てなかったし?
ドランク
まぁ、表情はいまと同じくらい、
険しい顔してたけどさ。
スツルム
浮いてた……明らかに。
どう見ても、
あたし達の世界の住人じゃなかった。
ドランク
君らも聞いてるかもしれないけどさ、
あの人元々、
エルステで王家と一緒だったじゃない?
ドランク
だからかな……
妙に隙が多いと言うか……
場馴れしてないと言うか……
ドランク
あの目で四方八方に、
敵意をばら撒いていたけど、
それが虚勢にしか見えなくてねぇ……
スツルム
カモが来た……正直そう思った。
リーシャ
あの黒騎士にそんな時代が……
ドランク
あの人も人の子だったってわけ!
ねぇ? オイゲンさん?
オイゲン
オレが一緒に居られたのは、
本当に小っちぇ頃までだったが……
オイゲン
あいつは大人しい子だったよ。
本が好きで、
小っちぇ手でデカい本抱えてなぁ……
二人は黒騎士との出会いの話を続ける。
ドランク
その浮きっぷりにもビックリしたけど、
依頼の内容もまた、
信じられなくってねぇ……
ドランク
僕達を側近として
雇いたいって言うんだもん……
エルステ帝国のトップがだよ?
ドランク
まぁ、あの宰相サンの
息のかかってない部下が
必要だったみたいだけど……
スツルム
だからって……
金で雇った傭兵を側近にするなんて、
考えられない話だった。
ドランク
さらにあの人、報酬を前払いで
全部渡してきちゃってさ……
もう笑うっていうか、引いたよねぇ!
ラカム
そりゃ確かにおかしな話だな……
ラカム
前金は報酬の半分だけ渡して、
残りは依頼が達成してからだろ?
それが普通じゃねぇのか?
ドランク
でしょー?
でも、あの人、
それすら知らなかったみたいでさ……
ドランク
僕らが裏切ったらどーすんの?
って思って聞いたわけ!
ドランク
そしたらあの人……
金を払った以上、
決して裏切らないだろう? って……
スツルム
確かにあたし達はまともな傭兵だから、
金を受け取った以上、
裏切ることはない……
スツルム
けど、世の中、
あたし達みたいな奴ばかりじゃない……
スツルム
なんであの時、
あたし達を全面的に信頼したのか……
いまでもよくわからない。
ドランク
僕らが居る汚れた世界とは無縁の……
綺麗な世界で生きてきたんだろうな、
って、そう思っちゃったんだよね。
ドランク
それに側近すら
金で傭兵を雇うしかないくらい
当時、あの人の周りには誰も居なかった。
ドランク
そうしたらさ、あの人のこわーい顔が、
一気に不安そうな顔に
見えてきちゃってさ……
ドランク
自分の弱さを隠すために、
必死に吼えてるワンちゃんみたいに
思えてねぇ……
オイゲン
…………
ドランク
ま! そーいうわけで、
僕達はちゃんとお仕事をするわけ!
多少の私情はあるけどね!
スツルム
手のかかる雇い主だと思う……
けど、やりがいのある依頼だ。
オルキス
アポロ……
そんなことがあったんだ……
ドランク
っと、これ話したの秘密ね?
バレると間違いなく、
僕らの首が飛んじゃうからさ!
カタリナ
ああ……
いま聞いたことは、
私達の胸の内にのみ留めておこう。
ドランク
さてさて……
ちょっと長話しすぎちゃったかな?
スツルム
気配……
魔物が寄ってきてる。
ドランク
んじゃ、一緒に戦うのは、
これが最後だろうし、
パーッとやっちゃおっか!
ドランクはオルキスに、黒騎士探しを優先する自分達に同行するかを尋ねる。黒騎士を心配するオルキスだったが、島の異変の引き鉄となった事をロゼッタとユグドラシルに詫びる事が己の使命と思っていると明かす。だからグラン
達に同行したいと告げたオルキスに、スツルムとドランクは温かく励ましの言葉をかける。
魔物を退け、
ドランクとスツルムの二人は、
一行に背を向け歩き始める。
しかし、数歩も歩かないうちに、
不意にドランクは
一行のほうを振り返った。
ドランク
っと、そうそう!
大事なこと忘れるとこだった!
一行の元へ戻ってきたドランクは、
膝をつき、オルキスに視線を合わせる。
ドランク
オルキスちゃん……君はどうする?
オルキス
……………
ドランク
僕達はこれから、
黒騎士を探しに行くけど……
一緒に来るかい?
オルキス
私は……
スツルム
あたしは反対だ……
一緒に来られても、
足手まといになるだけだ。
スツルム
戦力にならない奴まで、
守ってやる余裕はない。
オルキス
…………
ドランク
また、そんなこと言ってぇ~……
それってつまり、オルキスちゃんの
身を案じてのことでしょ?
ドランク
確かに、人数も多いし、
グラン達と一緒に居たほうが、
安全……
ドランク
痛っ!?
ちょっ! スツルム殿!?
スツルム
こ、こういうことは、
察しても口に出すな!
恥ずかしいだろ!
オルキス
ありがとう……スツルム。
スツルム
ふ、ふん……
オルキス
私は……アポロに会いたい。
いま……アポロが、すごく心配。
だから……会いに行きたい。
オルキス
でも、私……謝らなきゃ。
ロゼッタさんと……ユグドラシルに。
オルキス
ユグドラシルは……私が起こした。
それで……
いま、酷い目に遭ってる……
オルキス
それで……
ロゼッタさんまで、大変なことに……
だから、謝らなきゃ……
オルキス
だから私は……
グラン達と一緒に行く。
ドランク
そう……
じゃあ、頑張っておいでよ。
オルキス
うん……
スツルム
あたし達の雇い主は、
あたし達に任せておけばいい。
スツルム
もし……
無事に見つけられて、
あの人が拒まなければ……
スツルム
その時は、
お前達のところまで、
黒騎士を連れて来てやってもいい。
オルキス
うん……ありがとう。
きっと待ってる……
ドランク
じゃ!
再会の約束も出来たことだし、
僕達そろそろ行くね!
オイゲン
なぁ……
アポロの奴を……頼んだぜ。
スツルム
当たり前だ……
あの人はあたし達が守ると決めた、
雇い主だからな。
ドランクとスツルムの二人は、
踵を返すと振り返ることなく、
深い森の中へと消えていく。
カタリナ
では……私達も行こうか。
ロゼッタが首を長くして、
待ってることだろうしな。
ルリア
ですね……
行きましょう、オルキスちゃん!
オルキス
うん……!
二人組の傭兵と別れた一行は、
ロゼッタの姿を求め、
再び森を進み始めるのだった。