タワーの一室で宰相フリーシアは狂気じみた笑みを浮かべる。その足元には傷ついた少将フュリアスが転がっており、悪態を吐くフュリアスにフリーシアは、力など幾らでもくれてやる、と言い放つ。一方、アガスティア市街では、異常事態が街人達を次々と襲っていた。その光景を目の当たりにしたポンメルン大尉の中に、ある決意が芽生える。
フリーシア
くく……素晴らしい……
薄暗い一室で、
仄かに光る力の残滓を見つめながら、
フリーシアは満足げに微笑む。
そしてそのフリーシアの足元には、
苦しげに呻く
フュリアスの姿があるのだった。
フュリアス
はぁ……はぁ……
く、くそ……
ふざけんな……ふざけんなよ……!
フリーシア
何が……ですか?
フュリアス少将。
フュリアス
お前……
なんだよ、その力……
なんなんだよ、それ!
フリーシア
それを貴方が知る必要はありません。
知る資格も無ければ、
知ったところで意味はないでしょう。
フュリアス
くそっ……!
ぜぇ……はぁ……
ボクにも……もっと力があれば……!
フュリアス
お前なんて……
お前なんてぇぇ……!!
フリーシア
…………
冷たくフュリアスを
見下ろしていたフリーシアは、
不意にフュリアスの頭を掴む。
フュリアス
ぐあっ!?
フリーシア
力が……欲しいのですか?
フュリアス
な、なんだよ……
フリーシア
力が欲しいというのなら、
こんなもの……
いくらでも差し上げます。
フュリアス
なに……?
フリーシア
こんなものを心の底から望むのなら、
嫌というほど差し上げましょう……
フリーシア
それこそ……
貴方の器が壊れ、
溢れるくらいの膨大な力を……!
フュリアス
ひっ……!?
一方その頃、混戦を極める
アガスティアでは、住人達が不安げに
その成り行きを見守っていた。
帝国の街人1
なんだか大変なことに
なっちゃってるけど、
この街は本当に大丈夫かねぇ……
ポンメルン
し、心配ありませんネェ!
中将閣下や少将閣下が、
あんな奴らなどあっという間に……
帝国の街人1
そ、そうね……
エルステの軍は、
強い人がたくさんいらっしゃるものね。
帝国の街人1
きっと街も、すぐに静かに……
ポンメルン
なっ!?
ど、どうしたと言うんですネェ!?
しっかりなさいィィ!
ポンメルンが倒れた街人に駆け寄ると、
息はあるものの、弱々しく、
苦しげな様子で目を瞑っていた。
ポンメルン
これは……
帝国の街人2
す、少し前から、
体調が悪いって言ってたからな……
俺、すぐに医者を呼んできます!
帝国の街人2
うわっ!?
ポンメルン
だ、大丈夫ですネェ!?
帝国の街人2
いたた……
いや、なんか、
妙に足がもつれちゃって……
帝国の街人2
それになんだか……
俺まで妙に気分が……
ポンメルン
……!
次々と街の住人達が不調を訴える中で、
ポンメルンの胸中には、
一つの確信が生まれる。
そしてそれは、
ついにポンメルンを突き動かし、
大きく戦況を揺るがすのだった。
グラン
達はついにタワーの入り口へ辿り着くが、そこは堅牢な扉で閉ざされていた。手をこまねいていると、援軍の中に不調を訴える者が出始め、絶望的な空気が立ち込める。その時、タワーの入り口がゆっくりと開き、中から現れたポンメルン大尉は、苦しむ帝都の人々を助けるようグラン
達に願い出るのだった。
グラン一行は、
ついにリアクターの設置されている
タワーの入り口にまでたどり着く。
しかし、援軍を得て生まれた勢いは、
この入口で止められてしまうのだった。
モニカ
やはりタワーの入り口は
開きそうにないか……
オイゲン
そのまま真っ直ぐ入れるとも
思ってなかったが……
こりゃあちょいと骨が折れそうだぜ……
オイゲンはそう言って、
そびえるタワーの門扉を叩く。
それはもはや城門とも呼べる大きさを
誇っており、
一行の前に重く立ち塞がるのだった。
ラカム
ちっ……
2、3発撃ち込んだ程度じゃ、
びくともしねぇな……
黒騎士
地道に削るのでは、
らちが明かないな……
もっと強力な一撃が必要か……
ルリア
そ、それなら私が星晶獣を……
カタリナ
いや、待て……
この街には民間人も
住んでいるからな……
カタリナ
星晶獣の一撃では、
強力過ぎて街にまで被害が
及びかねない……
モニカ
帝国との決戦に備え、
人手は用意してきたが、
さすがに攻城兵器の準備は無いな……
シェロカルテ
お店の方になら在庫があるんですけど、
いまから持ってきたんじゃ
時間がかかっちゃいますし~……
モニカ
仕方がない……
ひとまずは地道に破る方法を探すとして、
シェロは攻城兵器の手配を……
ザカ大公
いや……
もはや時間的な猶予は
無いようじゃな……
モニカ
なに……?
ザカ大公
騎空士や軍の者の中で、
謎の不調を訴えるものが出始めとる……
ザカ大公
それにこれは勘じゃが……
先ほどから帝都の空気が
変わったように思う。
ザカ大公
もしかすると、
すでに事は動き出しているのやも
しれんぞ……
黒騎士
あの女がリアクターを
起動したというのか……?
オイゲン
いや、しかし……
もしも本当にリアクターの影響なら、
不調程度じゃすまねぇはずだぜ?
ロゼッタ
まだ試運転で出力を
制限している可能性もあるわ。
ロゼッタ
どちらにせよ、
もうあまり時間は
残されていないようね……
一行は立ち塞がる巨大な障害を、
成す術もなくただ見上げる。
すると、不意に巨大な音が周囲に響き、
大きく地面が揺れ始める。
ラカム
な、なんだ……!?
カタリナ
見ろ! タワーの扉が……!
カタリナの指さす先では、
タワーの巨大な門扉が鈍い音を響かせ
徐々に大きく開きつつあった。
ポンメルン
…………
カタリナ
…………
ポンメルン
何を呆けていやがりますかネェ……
時間が無いのでショウ?
早くお行きなさイ!
カタリナ
ポ……ポンメルン!?
貴様がこの扉を開けたのか!?
ポンメルン
他に誰が開けられると言うんですネェ!
タワーの正門は内側からの操作でしか、
決して開きませんからネェ……
ポンメルン
通用口からタワー内部に入れるのは、
一定以上の階級の軍人と、
政府関係者に限られてるんですヨォ。
ラカム
そ、そりゃあわかったが……
でも、なんでお前が……?
ポンメルン
つべこべとうるさい奴らですネェ!
何故かと問われれば、それは……
ポンメルン
吾輩が……
誇り高きエルステの軍人だからに
決まってるじゃありませんか。
イオ
じゃ、じゃあ……!
ポンメルン
吾輩達の仕事は、
エルステの民を
守ることですからネェ……
ポンメルン
すでに街の住人達にも、
不調を訴える者が
出始めてるんですヨォ……
ポンメルン
これは恐らく、
宰相閣下の装置の影響なのでショウ?
ロゼッタ
詳しいことはわからないけど……
その可能性は十分にあるわ。
ポンメルン
だったらさっさと、
その装置とやらを
壊してきてくださいヨォ!
ポンメルン
吾輩はこの街の住人達の、
手当をしなければ
なりませんからネェ……
ポンメルン
一刻も早く装置を壊して、
街を元に戻すのですヨォ!
オイゲン
けっ……
オレ達は最初っから、
そのつもりだったっつーの……
リーシャ
でも、これで文字通り、
道が開けましたね!
イオ
えっと……
あ、ありがとう……
ヒゲの軍人さん……
ポンメルン
貴様らに礼を言われる筋合いは
ありませんネェ……
いいからさっさと行くんですヨォ。
ポンメルンの言葉に促され、
グラン一行は、
タワーの中へと駆けこむ。
タワーに足を踏み入れた一行の背中に、
ポンメルンの無愛想な声が届く。
ポンメルン
そうそう……
そこの子供に、
ひとつ言い忘れてましたネェ……
イオ
……?
ポンメルン
吾輩の名前は、
ポンメルン、ですヨォ。
しっかり覚えておきなさいネェ!
イオ
ふふっ……わかったわ!
それじゃあね!
帝国軍人のポンメルンさん!
それだけ告げると、
一行は一気にタワーの中を走り始める。
その背後でポンメルンは、
やれやれ、というように、
自らの髭を撫でるのだった。